くつろぎのロッキングチェア
今、私の目の前には特別な座り心地のチェアがあります。
長く弓なりにカーブした脚と、曲木であしらったオシャレな装飾。
曲木加工で作られたロッキングチェアです。
このロッキングチェアの魅力について語りたいことは多いのだけど、先に座ってみることにしますね。
では、失礼して…
まずロッキングチェアに腰かけたら、そっと背もたれに寄りかかってみます。
するとチェアが傾き始めて、私の足がフワッと床から離れていきました。
さらに背中側に重心をかけてみると「あれあれ?どこまで傾くのかな?」と思うくらいロッキングチェアが後ろに深く傾きます。
感覚としては、チェアに座ったまま仰向けに寝転んでいるみたい。
居心地が良くて目をつぶった瞬間に眠りに落ちそうです。
(あ~、毛布があったら寝ちゃうなぁ)
その座り心地(寝心地?)は想像以上。
私も初めて座って以来、その座り心地の虜になっているんです。
このロッキングチェアのすごいところは、少しの重心の移動で傾きが変わること。
浅い角度から深い角度まで自分の好きな角度に傾けて座ることができるし、
体を起こして前方に重心をかけるとチェアはゆっくりと前に傾くから、椅子から降りるときも足がしっかりと床に着いて、自然な姿勢で立ち上がることができちゃうの。
例えば座面の低いイージーチェアでは、深く座ると起き上がりにくく、立ち上がるのも億劫になりがちでしょう?
でもロッキングチェアの傾きを利用すると、この「深く座る(リクライニングする)」「立ち上がる」という動作もとても楽なのです。
ロッキング(rocking)とは英語で「揺れる」という意味。
脚が弓型になっており、ゆらゆらと揺らしながら座るほか、大きく後ろに傾けて自分の心地良い角度でくつろぐことができます。
ただ、同じロッキングチェアといっても形は色々。見比べるとずいぶんと印象が違うんですよ。
どうして多様なロッキングチェアが作りだされたのか、今日のコラムで少しだけ覗いてみることにしましょう。
揺れる椅子・くつろぐ椅子
最初のロッキングチェアが、いつ・どこで作られ始めたのかは不明ですが、18世紀に入ると、イギリスが入植していたアメリカで盛んに作られていたそうです。
ウィンザーチェアやラダーバックチェアの脚に曲げ加工をした板を取り付けた簡素な作りでしたが、
庭先で、またはテラスや屋内で、ロッキングチェアに座ってくつろぐのが当時のアメリカの日常の風景でした。
一方、イギリスでも19世紀には庶民の暮らしに広く普及していたようで、椅子工房ではウィンザーチェアとともにロッキングチェアの製作も請け負っていました。
実際にイギリスで1865年に刊行されたチェアカタログでは、多くのウィンザーチェアとともにロッキングチェアが掲載されています。
このカタログのロッキングチェアは、サイズこそ違えど傾きは控えめで、ダイニングチェアの延長のような素朴な作りです。
お年寄りはもちろん、赤ちゃんを抱っこしたお母さん、仕事帰りのお父さんも気軽に腰掛けて、
足を使って少し後ろに傾けたりコトコトと小さく揺らしながら時間を過ごしたのでしょう。
1860年。
ベントウッドチェアを生み出したミヒャエル・トーネットが、ヨーロッパでベントウッド・ロッキングチェア「No.7001」を発売します。
それは『なめらかなカーブを作れる曲木技術と軽さ』というベントウッドの利点を十分に発揮した革新的なロッキングチェアでした。
画像はトーネットではありませんが、同じタイプのベントウッドロッキングチェアです。
名作と言われたトーネット「No.7001」は大変な人気となったため、後にほぼ同型のものが複数の椅子メーカーによって製作されました。
冒頭でご紹介したロッキングチェアも、よく似た形をしていますね。
さて、「No.7001」は、座った人の足が床から離れるほど大きくリクライニングしてくつろげるロッキングチェアです。
当時のヨーロッパでは「人前で横になるのは病人だけ」といった固定観念があったため、この深い傾きに驚いたのでしょう。「まるで病人用のようだ(みっともない)」と酷評したそうです。
しかしながらアメリカでは大人気となり、ヨーロッパの工場から大量に輸出されるようになりました。
その頃のアメリカは独立して100年に満たない新しい国。
古い固定観念に囚われなかったアメリカ人にとって、ゆったりと体を休めることのできるベントウッド・ロッキングチェアはとても魅力的でした。
さらに歴史ある先進的なヨーロッパへの憧れ、ベントウッドならではの丈夫さと軽さ、低価格も人気の理由となったそう。
やがてアメリカでの人気がヨーロッパにも飛び火して広がり、従来のロッキングチェアとともに親しまれるようになったのです。
同じころアメリカで作られていたのが「プラットフォーム・ロッカー(アメリカンロッカー)」。
ほら、脚の構造が少し違うでしょう?
ベースの上にチェアが載っていて、チェア下のバネが伸び縮みすることで前後に揺れる仕組みです。
凸凹が多い床でも使え、床を傷めにくいことからイギリスでも製作されるようになりました。
このようにロッキングチェアは「揺れる」という機能はそのままに
より快適に過ごすために座面をコードや籐で編み込んだもの、贅沢な革張りのもの、折りたたみタイプからキッズサイズまで、多様なバリエーションが生みだされたのです。
オリジナルロッキングチェアに座る
大きなチェアに深く寄りかかってゆったり気分を楽しみたいときには、ビクトリアンクラフトオリジナルのロッキングチェアを選んでみませんか?
このロッキングチェアはアンティークのキズや古びた味わいを忠実に再現しているので、趣きのある佇まいが自慢。
存在感もあるので、座っていないときもお部屋を印象的に演出してくれます。
座面の高さは49.5cmで、一般的なチェアに比べてほんの少し高めに感じます。
ほら、アメリカンロッカーと比べると随分座面の高さが違いますね。
「足の短い私でも座れるのかしら?」と最初は心配したのだけど、全く問題ありませんでした。
自分側に傾けたロッキングチェアに腰掛けて、そのまま体を預けると、ゆっくりとなめらかに後ろに傾いていきます。
この「ゆっくりと傾く」がポイント。
好きな角度に傾いたときに、静かで落ち着いた気分になるんですよ♪
あ~、毛布があったら眠っちゃうなぁ。
(デジャブかな)
このオリジナル・ロッキングチェアも重心の移動がスムーズで、座る・立つの動作がとても楽。
ちょっと高めの座面も、いざ腰掛けてみると視界がいつもより高くなって新鮮!
イライラしたり落ち着かなかったり、気分を変えたいときにもピッタリの居場所になってくれそうです。
ロッキングチェアのある暮らし
機械で丁寧に削り出して、滑らかに整えたチェアには、整然とした美が宿ります。
一方で、この素朴なロッキングチェアも本当に美しい佇まい。
硬い木のフシがボコボコとした凹凸を作る、素朴なアンティークのロッキングチェアです。
ところどころ黒く煤けたりすり切れた木肌も良い味わいのアンティークからは
たくましく生きていた人々の、慎ましい暮らしが垣間見えるような気がします。
私たちも毎日頑張ってばかりでは息切れしてしまうから
仕事がひと段落したら、お気に入りのロッキングチェアでホッと一息。
近くにいる家族と他愛もない話をしながらユラユラと揺らしたり、ゆっくりと深く傾けて目を閉じれば身も心も安らぎます。
ゆったり過ごしたい時間の特等席として、くつろぎのロッキングチェアをお楽しみください。
5年後も10年後も、もっと先まで。
色褪せることなく、あなたとあなたの家族の毎日を素敵にしてくれる。そんなアンティークをビクトリアンクラフトはお届けします。
参考文献
「ウィンザーチェア大全」島崎信 山永耕平 西川栄明/誠文堂新光社
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