家具とともに受け継がれた装飾たち
アンティークの家具ってオシャレです。
部屋に置くと雰囲気がガラリと変わるというか、インテリアがドラマティックに感じられて「もう、素敵!」って思っちゃう。
アンティークが部屋に作り出す豊かな陰影は、丹念に凝らされた装飾のなせる技。
艶やかな気品も、古めかしい威厳も、この装飾があってこそ惹き立つのです。
こうやって眺めていると、家具は物を収めるための「ただの便利な生活道具」ではないみたい。
家具の装飾は、暮らしの風景を豊かにしたり、ときめいたり、幸せな時間を作るための大切な演出装置のようにも見えてきます。
テーブルの脚のブルボースに、チェアの挽物細工。ほら、ボリュームたっぷりのシルエットが素敵でしょう?
ブルボーズとは球根型の装飾の名前。
これら装飾につけられた名称もまた、家具とともに長く受け継がれてきました。
今回のコラムでは数ある装飾の中でも特に馴染み深い装飾の名前を通して、アンティークの魅力を覗いてみることにしましょう。
家具も装飾も、より美しい形へ
今回の家具の物語は15世紀から始まります。
これ以前のイギリスの暮らしは素朴なもので、領主や地主でも持てる家具は少なく簡素なベンチやテーブルが多かったようです。
しかし15世紀にヘンリー7世がチューダー朝を開いて以降、ヨーロッパ諸国で当時最先端だった建築や生活様式を積極的に取り入れ始め、エリザベス女王の治世では家具も美しく姿を変えていきます。
代表的な装飾として、折り重ねた布に似た装飾「リネンフォールド」が家具の扉などに彫り込まれるようになりました。
「リネンフォールド(LINEN FOLD)」は16世紀のゴシック様式を代表する装飾で、教会の祭壇やその脇に使われていたドレープから生まれたデザインと言われています。
さらに家具の脚には大きな球根型の装飾(ブルボース)が飾り付けられ、より華やかに贅沢に家具を楽しむようになります。
「ブルボース(BULBOUS)」とは球根状という意味。
ボリュームたっぷりの贅沢な装飾ですが、これを「球根」と呼んだ素朴さが可愛いと思いませんか?(とても可愛いです)
時代は流れ17世紀。
イギリスでは清教徒革命を経て、一時国外へと脱出した王子がチャールズ2世として即位します。
チャールズ2世はポルトガルの王女と結婚しますが、彼女が結婚道具とともに持ち込んだのが「バーリー・シュガー・ツイスト(BARLEY SUGAR TWIST)」という装飾です。
強国オランダやポルトガルで流行していた装飾で、イギリスでは当時食べられていたキャンディーのお菓子「ねじり飴」に似ていることからバーリーシュガーツイストと呼ばれたのだそう。(なんとも美味しそうで可愛い名前ですね)
さらにこの頃は挽物細工の形にもアレンジが加わり人気となりました。
挽物細工はウィンザーチェアやスツールなど労働者の作業椅子にも取り入れられた、身近な装飾の1つだったようです。
この形の装飾は糸巻き(ボビン)が連なったような形から「ボビン・ターニング(BOBBIN TURNING)」と呼ばれています。
名前の由来は身近な仕事道具。人々の牧歌的な暮らしが垣間見える素敵な装飾です。
18世紀はアン女王がグレートブリテン王国君主・アイルランド女王となった時代。
この時代から次のジョージ王朝にかけてはフランスの流行をとりいれ、家具の姿もエレガントで華やかな姿へと進化します。
例えばカーブした優雅な脚「カブリオール・レッグ(CABRIOLE LEG)」もこの時代から盛んに取り入れられた装飾です。
日本では「猫脚」と呼ばれる装飾ですが、フランス語の舞踏用語では「飛び跳ねる」を意味し、さらに由来をさかのぼるとイタリア語で「山羊が飛び跳ねる」といった意味があるんだそう。
(ネコじゃなくてヤギですって!)
優雅な装飾だけど名前の由来を知るとナルホド、今にもピョンピョンと元気に飛び跳ねそうに見えてきちゃう。
カブリオールレッグの脚先には、丸みのある形が可愛い「パッド・フット(PAD FOOT)」、玉を掴む獣の爪がエキゾチックな「ボールアンドクロウ(BALL AND CLAW)」など個性的なデザインがあしらわれていることも多いんですよ。
この獣の爪は中国の「玉を掴む竜」の装飾から取り入れたデザインだそう。エキゾチックな東洋スタイルへの憧れが感じられる装飾です。
18世紀後半には、チッペンデールやヘップルホワイトといった家具デザイナーが登場します。
彼らは異なる様式を組み合わせて、独自のデザインを模索するようになります。
画像のチェアはヘップルホワイト様式です。
盾形の背もたれに紋章や羽飾りなどのモチーフをあしらい、脚には先の細いスペースフッドを合わせるなど、洗練されたデザインで人気となりました。
なかでも「プリンス・オブ・ウェールズ(PRINCE OF WALES)」と呼ばれる装飾は美しく、後に庶民的の使うチェアにも、この装飾が取り入れられました。
プリンス・オブ・ウェールズとはイギリス王子に与えられる称号です。その象徴である3枚の羽の紋章をモチーフにした、美しい装飾なんですよ♪
大衆にも親しまれた装飾
これまで最先端の装飾の入った家具は、ヨーロッパの流行に憧れた王侯貴族のための贅沢品でした。
しかし18世紀後半、チッペンデールやヘップルホワイトといった人気の家具デザイナーがパターンブック(室内装飾と家具のデザインカタログ)を出版したことで、変化が起きます。
パターンブックを通じてイギリス各地に家具デザインが広まり、労働者たちの家具にも積極的に装飾が用いられるようになったのです。
例えば、庶民的なチェア「ウィンザーチェア」などの背板(スプラット)は従来、バイオリン型の「フィドルバック(FIDDLEBACK)」が主流でした。
しかし、新たに「ホイールバック(WHEELBACK)」「フルール・ド・リス(FLEUR DE LIS)」「プリンス・オブ・ウェールズ」など美しいデザインが採用されると、たちまち人気となったそうです。
特に人気となったのは、このホイールバック。
馬車の車輪(ホイール)のような形から名付けられ、ウィンザーチェアのスプラットとしては、もっともポピュラーな装飾となっています。
フルール・ド・リスは、後のアーコールチェアにも取り入れられています。
アーコールの1965年のカタログにはフルー・ド・リスをモチーフにしたウィンザーチェアとして掲載されています。
人々を夢中にさせた装飾は、家具とともにリバイバルされて、現代でも愛され続けているんですね。
今回ご紹介できた装飾はほんのわずかですが、もしお気に入りのアンティークの装飾が気になったら、名前や由来を調べてみるのも面白いですよ♪
装飾はいつも暮らしの傍に
近代に入り産業革命を経て経済的に余裕が生まれた市民は、貴族が持つようなオシャレな家具を買い求めたそう。
憧れ続けた美しい装飾のある家具を部屋に置いた喜びは、いったいどれほど大きなものだったでしょう。
きっと宝物のように日々磨いて、眺めて、大切に使ってきたはず。
オシャレな装飾への憧れと家具への深い愛情が、今まで受け継がれてきた装飾の1つ1つにも込められているように思います。
そして装飾の名前が人々の暮らしの身近なものから名付けられたと知るだけで、アンティークへの親しみも増すばかり。
エレガントな装飾にも素朴な名前がついていて、その意外性にほっこりしちゃうんです。
この素朴な名前も、きっとアンティークの魅力の1つ。
装飾の名前を知るほどに、アンティークをもっと身近に感じられそうですね。
5年後も10年後も、もっと先まで。
色褪せることなく、あなたとあなたの家族の毎日を素敵にしてくれる。そんなアンティークをビクトリアンクラフトはお届けします。
参考文献
「ウィンザーチェア大全」島崎信 山永耕平 西川栄明/誠文堂新光社
「英国のインテリア史」トレヴァー・ヨーク著 村上リコ訳/マール社
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