No.01【後編】|Mrs.Morrisの服づくり

 

イギリスが誇る近代デザインの父、ウィリアム・モリス(1834-1896)。

彼の美意識に共感し、そのデザインを日々の暮らしに取り入れる人がいます。
イギリスの自然を巧みに織り込んだモリスのデザインが、
洋室だけでなく、和室にも似合う不思議。
様々なかたちでモリスデザインが活かされた生活を覗いてみることで、
あなたのお部屋にも取り入れられるヒントが見つかるかも。

With Morris ―― モリスと共に暮らす人々の物語を紐解いてみましょう。


目次

【前編】

1.《ピンパーネル》が呼び込んだチャンス

2.名作から生まれたMrs.Morris

【後編】

3.柄に敬意を、工夫はひとさじ

4.山梨へ、イギリスへ、広がる世界


 

柄に敬意を、工夫はひとさじ

ビクトリアンクラフト:
では、Mrs.Morrisさんの服づくりのこだわりについて
詳しくお聞きしたいと思います。

Mrs.Morris:
いろいろとこだわりはありますが、
一番は柄合わせですね。
絶対に、左右対称。
後ろには着脱用のファスナーがあるんですが、
そこも柄がピッタリ合うようにしています。
この中心がずれてしまったら、
「モリス」の名前を冠した服にはならないなと。
ビクトリアンクラフトさんのモリス生地を使った
チェアなどもきっとそうですよね。

 

ビクトリアンクラフト:
おっしゃる通りですね。
柄合わせを最優先に考えると
どうしても生地の半端な部分が
出てしまうんですが、
そこは私たちもこだわりたいところです。

Mrs.Morris:
左右対称のデザインがズレてしまったら、
美しさが全然違いますもんね。
もちろん、私も極力、
無駄な生地は出したくありません。
アパレルは業界的にも売られている服より、
捨てられる服の方が多いですからね。

 

ただ、このデザインを最大限に活かすには
やむを得ないときもあります。
その分、ハギレなどはオーナメントなどの
小物に仕立てています。
微々たる数しか作れないのですが、
できるだけ捨てないように……
というか、モリスの生地は
なかなか捨てられませんね。
「ここにまだかわいい鳥が残ってるなぁ」と思うと、
忍びなくて。

 

ビクトリアンクラフト:
まず柄ありきでシルエットを作っていくんですか?

Mrs.Morris:
そうですね。
今はシーズンごとに作っているので、
「春夏は華やかな柄にしよう」
「秋冬は深みのある色合いにしよう」と、
柄を決めてから作りはじめています。
ワンポイントで取り入れるという
選択肢はあるものの、
総柄であることがMrs.Morrisらしさだと考えています。

ビクトリアンクラフト:
袖口にあしらわれたボタンも素敵です。

Mrs.Morris:
ありがとうございます。
実はここもとてもこだわっている部分でして、
選ぶだけでも一日がかりです。
昔ながらのボタン屋さんって行かれたことありますか?
壁一杯に引き出しが並んでいて、
今では作れないヴィンテージボタンも多いんです。
それこそ宝探しのような気持ちですね。
作りかけのドレスを持っていって、
合わせながら選びます。
シルエットをシンプルにしている分、
柄のアクセントになるように気を遣っています。

 

ビクトリアンクラフト:
ボタンで一日がかり……!
着想を得てから、完成までにどれくらい時間をかけているんですか?

Mrs.Morris:
うーん……だいたいイメージしてから
2週間くらいでしょうか。
使いたい柄選びは即決なんです。
ただ、細部にこそ気を遣いたいので
「あとはボタンが決まれば完成!」
ということもありますね。

 

実はもう2年ほど温めている
《いちご泥棒》のドレスがあるんです。
何度も試作をしてはいるんですが、
納得できない部分があって。
やっぱり《いちご泥棒》って
モリスの代表作というイメージが強いので、
生半可な気持ちでは作れないんですよね。
もし販売するときはMrs.Morrisの顔になるような
ドレスになってほしいので、
妥協はしたくないんです。

 

ビクトリアンクラフト:
新作に取り掛かるときは、
デザインなど試行錯誤されることも多いんでしょうか?

Mrs.Morris:
そうですね。
できるだけシンプルなデザインのなかで、
どれだけMrs.Morrisらしさを出せるかと
毎回、挑戦をしています。
3年目なので、以前作ったパターンを使って、
生地だけ変えるということもありますが、
「新しいパターンをつくらないと」という気持ちに駆られますね。
新たな挑戦という意味では、いつか柄同士を合わせてみたいですね。
モリスの柄同士とか、タータンチェックとモリスを組み合わせるとか……
とっても派手になっちゃうので、
難しいとは思うんですけどね。
あとは、総柄のコートは来年作りたいなと考えています。
寒い時期ってファッションが暗くなりがちなので、
そういうときこそ攻めた柄で
作りたいなと思っています。

 

ビクトリアンクラフト:
基本的には受注販売ということですが、
再販の要望も多いんじゃないですか?

Mrs.Morris:
ありがたいことに、ご要望はあります。
ただ、もう生地やヴィンテージのボタンが手に入らないものは、
お応えしたい気持ちはあっても作れないんですよね……。

 

ビクトリアンクラフト:
基本的に展開は女性服のみなんですよね?

Mrs.Morris:
夫にもよく言われるんです。
「モリス柄のシャツとか作ってくれない?」って。
でも、私は「Mrs.」なので、女性物の服だけですね。
いつか子ども服を販売できたらなと思っています。

 

山梨へ、イギリスへ、広がる世界

ビクトリアンクラフト:
少女的なエッセンスだけでなく、
ミセス(夫人)な上品さも相まって、
着ていただく方の年齢を問わないデザインだなと思います。

Mrs.Morris:
ありがとうございます。
実際にご購入いただく方も
20~60代くらいまでと幅広いんです。
私個人としては、
ぜひマダムのみなさんにも遠慮せず着ていただきたいですね。
年齢を重ねた品のある佇まいに
とっても似合う服だと思うので。
普段着としてももちろんですし、
おでかけするときや、
記念日にお食事にいくときなど、
大切なシーンにも寄り添える服になるといいなと思います。
基本的にネット上だけでの販売なので、
いつかドレスをまとったお客様に
ばったりと会えたら嬉しいですね。

 

ビクトリアンクラフト:
「お客様との接点」ということでは、
先日、長野県原村にあるWandsWorth(ワンズワース)さんで行われていた
イベントに出展されていましたね。

Mrs.Morris:
「イングリッシュアーリーサマーフェア」ですね。
今のところ、年に1回あるそのイベントへの出展が
お客様と対面でお会いできる唯一の機会です。
普段は家にこもって服を作っていることが多いので、
お客様とお会いするイベントも増やしていきたいなとは考えています。
でも、振り返るとインスタグラムがなかったら、
この仕事はなかったと思いますね。
もし5年前ならインスタグラムで商品を売買するって、
あまり考えられなかった。
ちょうど今の時代の波に乗れたというか……。
お客様がインスタグラムでMrs.Morrisの服を着たり、
小物を使っていただいたりしている投稿を楽しく拝見しています。

 

ビクトリアンクラフト:
最後になりますが、
今後のMrs.Morrisさんの展望をお聞かせください。

Mrs.Morris:
3年目になりますので、
自分のなかでも慣れてきた部分はあると思います。
始めた当初からひたすら作って、
お客様にお届けして……
という一連の流れは変わらないんですが、
そこからもう少し変化したいと考えています。
なので、今年いっぱいは
ドレスのオーダーは一旦お休みして、
来年に向けて新しい作品の構想を深めたいですね。
夢としては、モリスの生まれ故郷である
イギリスでファッションショーをしたいという想いはあります。
きっと、むこうだとモリスのデザインは
日常に溶け込んでいるものだと思うんですが、
日本人の私がそれを使って一生懸命服を仕立てていることについて、
どう感じるのか聞いてみたい。
あとは、いま住んでいる地域とも関わりたいなと思っています。
山梨は郡内織物、たとえばシルクが有名なんですが、
そういった地場産業ともコラボレーションできたら嬉しいなと。
ほんとうに、これまでは作ってお届けすることで
精一杯だったんですが、
少し充電期間をいただいて、
新しいステージに向かっていきたいと思いますね。

 


《プロフィール》
Mrs.Morris (ミセスモリス)
2022年、ブランド設立
ウィリアム・モリスのファブリックを使ったレディース服やバッグを製作、販売
シーズン毎にInstagramにて新作ドレスのオーダー会を実施

Mrs.Morris公式インスタグラムアカウント
@Mrs.Morris

 

お読みいただき、ありがとうございました!


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