【連載】アンティークショップの舞台裏|アンティーク買い付け編

 

あなたのお部屋に届くまでに、その商品はどんな人々の手を渡ってきたのでしょうか?

イギリスでの商品買い付けから修理、販売、コーディネートにいたるまで……
各分野のエキスパートはみんな、あなたの「理想の空間づくり」を応援しています。

この連載では、あなたの手元にとっておきの一品がやってくるまでの「舞台裏」、
長野県松本市にあるアンティークショップ《ビクトリアンクラフト》のこだわりをご紹介します。

第1回は、ビクトリアンクラフトのアンティーク家具・雑貨の買い付けを担う、
バイヤー・よしのに、アンティークを仕入れる際のヒミツを聞きました!

イギリスの暮らしに根差す“アンティーク”                            

編集部/
新型コロナウィルスの流行で渡英できなくなってから約2年半……。ひさびさのイギリス現地での買い付け、おつかれさまでした!

よしの/
今回もみなさんの暮らしにぜひ取り入れていただきたいアンティークがたくさん見つかりました。
渡英できない時期は現地のパートナーとビデオ通話を繋いで買い付けをしていたのですが、やはり自分で直接行けると商品の幅が広がりますね。

今回はアンティーク家具だけでなく、ヴィンテージのティーカップやガラスウェアなど繊細な雑貨も仕入れられました。


▲ 買い付け担当スタッフ・よしの。アンティーク家具と雑貨の品ぞろえを支えるエキスパートだ。

 

編集部/
今回はイングランド北部を中心に買い付けをされたんですよね?

よしの/
はい、主にランカシャー州を巡って買い付けをしてきました。イギリスでは各地にアンティークマーケットやショップが点在しているのですが、ランカシャーは草を食む羊が印象的な、イギリスの田園風景が広がる地域です。

よしの/
家具が中心のショップ、家具と雑貨がバランスよく揃っているショップ、ドアノブなどのパーツ類を専門的に扱うショップなど、それぞれ個性があるのも面白いですよ。


▲ イギリスでは倉庫が丸ごとショールームになっているところも多い。買い付けはまさに宝探し!

よしの/
例えば、教会をリノベーションした《Holdenwood》というアンティークショップは有名かもしれません。 業者だけでなく一般の方でも訪れられるのですが、アンティーク家具とステンドグラスの共演にとてもワクワクします。


▲ 教会だった建物をリノベーションしたアンティークショップ《Holdenwood/ホールデンウッド》

 

「ときめき」と「実用性」の間で                            

編集部/
教会の建物を活用しているなんて、アンティーク好きにはたまらない場所ですね!
たくさんのアンティーク家具から、とっておきの一品を選ぶための基準などはあるのでしょうか?

よしの/
そうですね、もちろん予算や在庫とのバランスなどいろいろありますが、なんといっても「アンティークは一期一会」です。私自身も一人のアンティーク好きとしての気持ちの盛り上がりというか、「あ、これかわいい!」という一目見たときのときめきは大切にしています。


▲ 買い付けは時間との勝負!スマホとメジャーを持って店内を駆け回る。商品の状態のチェックもかかせない。

よしの/
自分の直感やこれまでの経験に加えて、販売スタッフからのフィードバックも常に意識していますね。
売り場で人気のアイテムはそろえておきたいですし、お客様から「こういったサイズ感のブックケースを探しているんですが……」といったリクエストをいただくこともあります。 一期一会な分、必ずしもご希望の仕様のアイテムが見つかるとは限らないのですが、そうしたご要望は頭に叩き込んで買い付けに臨んでいます。

よしの/
ビクトリアンクラフトは、あくまでも「美術品ではなく、実用品としてのアンティーク家具」を心がけています。なので、お客様の生活のなかで必要とされるものかどうかというのも重要なポイントのひとつですね。

身の回りにあることで気分が高揚するものでありながら、家具としての機能的な要望にも応えられているもの。そうした「とっておきの一品」にお客様が出会われた時の満たされた表情や嬉しそうなお顔が今でも頭に浮かびます。

 

誰かの「必要」のために 

編集部/
なるほど……アンティークと言ってもショーケースの向こう側の物ではなく、身近な生活道具なんですね。ちなみに今回は家具だけでなく、アンティーク雑貨もたくさん仕入れたと聞きました。

よしの/
はい、アンティーク雑貨もとても人気ですからね。特定のブランドをお探しのコアなファンの方はもちろん、これからアンティークに触れたいと思っている方も気軽に取り入れていただけると思います。


▲ イギリス老舗ブランドのヴィンテージテーブルウェアやガラスウェアは大人気。長い船旅で割れてしまわないように細心の注意を払う。

よしの/
また、ビクトリアンクラフトには、社内に店舗設計やデザインを行う部門があります。特にアイリッシュパブやバーなどのヨーロッパデザインを得意としているので、実際に店舗の装飾品として使える看板やオブジェなども意識的に仕入れるようにしています。


▲ 《ギネスビール》やウィスキーの販促看板はイギリスならでは。アンティークドアにピッタリの古色美しい金物類も。

よしの/
先ほどアンティーク家具の実用性の話が出ましたが、こんな便利な家具があるんです。折りたたみができるトロリー(ワゴン)なんですが、限られたスペースを有効活用したい気持ちは時代を隔てても同じですね。


▲ 折りたたみできるトロリー(ワゴン)。使わないときはコンパクトに収納できる。

よしの/
ただ、たまに仕入れてからしばらく商品が残っていると「あれ、ちょっと失敗しちゃったかな?」と思うこともあります……(苦笑) それでもしばらくすると、ちゃんとそれを必要としている方と巡り合えるんですよね。そうした「出会い」の瞬間に触れられるとホッとします。「このお客様の理想の空間づくりのお手伝いができたんだなぁ」って。

 

「修理のしがい」が品質につながる              

編集部/
そういえば今回、修理スタッフが「リモートで買い付けしていた家具より状態がよくて、修理しやすい!」と喜んでいたようでした。

よしの/
ふふふ、そうでしたね。できるだけ状態のよいものが仕入れられれば、より当時に近い状態で、かつスピーディにお客様の元に届けられます。その分、予算との相談にもなりますけどね……(笑)


▲ 年代も状態もまちまちの家具倉庫から、頭をフル回転させてビクトリアンクラフトのお客様に必要な一点を選び出す。

よしの/
状態がよい物を探しつつも、一方で「これは職人さんたちが直したがるんじゃないかな〜」と感じるアンティーク家具もあります。 

編集部/
「職人さんが直したがる」というと?

よしの/
なんと言うのかな……「修理に張り合いがある」というか。

よしの/
例えば、今ではなかなか出会えない良質な素材、珍しい構造やデザイン、その家具を作った職人さんのこだわりが感じられる家具などですかね。

時折、修理スタッフたちがイギリスから届いたばかりのアンティーク家具を手入れしながら「オレならこういう風に仕上げるが、君ならどうする?」と真剣に意見交換しているシーンに出くわします。

ただ右から左へ流していくような仕事ではなく、つい熱が入ってしまうような、彼ら職人が自慢の技術を発揮したくなるような価値のある商品を見つけてくるのも私の仕事です。

職人さんたちもこれまでたくさんのアンティーク家具を手がけてきているので、やっぱり「目利き」なんですよね。お客様のもとへ商品が届く前に、そうした人たちの目と手を経ていくので私も身が引き締まります。


▲ ビクトリアンクラフトの修理工房。イギリスから家具が入荷した直後はフル稼働で修理を進めていく。

 

それぞれの「価値」を届けたい

編集部/
なるほど……リペアスタッフの「プライド」と「技術力」がアンティーク家具の品質にもつながっていくんですね。イギリスは古いものを大切に直して使っていくイメージがあるので、さまざまな人の手を経て私たちの手元にやってくるのだと思うと感慨深いものがあります。

よしの/
そうですね。おもしろいことに、イギリスでは新品より古い物の方が価値があるという考え方があって、家具だけでなく、家も新築より古いものの方が高値だったりするんです。

最近は「断捨離」や「SDGs」など、日本でも「質の良いものを長く使う」といった価値観が根付きはじめていますよね。実際にお客様から「子どもが手を離れたのを機に、私の理想の家具に囲まれて過ごしたくなった」という方や、若い方でも「豪華じゃなくてもいいから、自分の手の届く、質の良いものを使いたい」といったお声を聞くことがあります。


▲ これまでの持ち主がさまざまな「価値」を感じ、大切に使われてきたアンティーク家具や雑貨たちが次の使い手を待っている。

よしの/
ひとつアンティーク家具を手に入れたからといって、部屋中の家具をそろえようと頑張りすぎなくてもいいんです。現代の家具のなかにちょっとしたアクセントとして取り入れるのも素敵ですし、イギリスでも家具を長く大切に使っていると、自然といろんな時代のデザインがミックスされたインテリアになってくることもあるので。

ちなみに、現地で買い付けたアンティーク家具が日本に届くまでは3ヶ月ほどかかります。 家具のリクエストをくださるお客様には「到着までの待つ時間も楽しみのひとつだね」と言ってくださる方も多いですが、もし引っ越しなどでお急ぎの場合でもお気軽にご相談いただけると嬉しいです。 同業者間のネットワークも充実しているので、できる限りご期待に添えたいと考えています。


▲ さまざまなスタイルのなかから、現代日本の暮らしにもなじむデザインをピックアップして買い付ける

よしの/
不具合が出たら修理ができるという安心感、さまざまな流行の波にも呑まれずに生き残ってきた普遍的で美しいデザイン、装飾に込められた時代背景や物語……ビクトリアンクラフトにいらっしゃるお客様それぞれに「価値を感じるポイント」があると思います。

そうした多様な価値観に必要とされる、それでいて身近にあるだけで毎日が楽しくなる商品を今後も仕入れていきたいですね。


文:編集部(小林)


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